親鸞会批判の真実

　これは意図的に、読んだ人が、
「我々の極楽往生は、【生まれた時から】すでに『決まっている』」
と理解するように書かれています。
　つまり、
「みんなすでに助かってしまっている。死ねば誰でも極楽に往ける」
と思うように、です。

　このような信仰を「十劫安心」の異安心というのですが、そう指摘されないように、慎重に言葉が選ばれています。

「それでは十劫安心ではないか」
の批判には、
「どこにも【生まれた時から】とは言ってはいない」
の用意が、周到になされているのです。

　これが「本願寺の教えのすべて」ですから、ひょうたんなでまずを押さえるような困難さですが、この苦渋の表現に込められた思惑をあぶり出し、正しい親鸞聖人の教えを明らかにしたいと思います。

平生業成の本当の意味は

「平生業成」とは、「平生に、往生の業事が成弁する」ことで、分かりやすく言うと、
「現在ただ今、"必ず浄土へ往ける身になる"という人生の大事業が、完成する」
ことです。

　"必ず浄土へ往ける身になること"が「人生の大事業」であり、「人生の目的」ですから、これは、
「現在、人生の目的が完成する。だから早く完成せよ」
のお勧めであり、この「平生業成」の教え以外に、親鸞聖人90年の教えは何もないことを、親鸞会会員は熟知しています。

　この聖人の教えで明らかなことは、古今東西の人類の中に、
「人生の目的を完成していない人」と、「すでに完成した人」とがある、ということです。

　すなわち、
「往生が決まっていない（往生不定）人」と「往生が決まった（往生一定）人」とがあるからこそ、「往生不定の人よ、早く往生一定の身になりなさい、今の救いを急げ」
と勧められているのが、「平生業成」の親鸞聖人の教えなのです。

　このように、「往生不定の人」と「往生一定の人」とがあることを、朝晩の『正信偈』では、

「三不三信誨慇懃」

"往生不定の人の心（三不）と、往生一定の人の心（三信）との違いを、（道綽禅師は）懇ろに教えられている"
とか、

「専雑執心判浅深」

"往生一定の心（専の執心）と、往生不定の心（雑の執心）を、（源信僧都は）ハッキリと分けておられる"
など聖人のお言葉は枚挙に暇がありません。

　蓮如上人も同様です。
「信心獲得している人（信後）と、信心獲得していない人（信前）とがいる。信心獲得していない人はもってのほかの大事である」
と、『御文章』にこう説示されています。

「この御正忌のうちに参詣をいたし、志を運び、報恩謝徳をなさんと思いて、聖人の御前に参らん人の中に於て、信心を獲得せしめたる人もあるべし、また不信心の輩もあるべし。以ての外の大事なり。
　その故は信心を決定せずは、今度の報土の往生は不定なり。されば不信の人も速に決定の心を取るべし」
「されば不信の人も速に決定の心を取るべし」（御文章）

と、「早く信心獲得せよ、信心決定せよ」と親鸞聖人の「平生業成」の教えを勧められています。

一念の救い 〜浄土往生がハッキリする〜

　しかも「信心獲得」は、「一念」であることを、親鸞聖人は『教行信証』に、

「『一念』とは、これ信楽開発の時尅の極促を顕す」

と明言されています。
「信心獲得」のことを「信楽開発」といわれ、「時尅の極促」とは、「これ以上速いことはない、時間の極まり」のことであると教えられているお言葉です。
　信前・信後の水際は、「一念」であることが分かります。

　この「平生の一念」に浄土往生がハッキリすることを、覚如上人は、

「然れば平生の一念によりて往生の得否は定まれるものなり。平生のとき不定の念に住せばかなうべからず」（執持鈔）

と説き、蓮如上人も『領解文』に、

「たのむ一念のとき、往生一定・御たすけ治定」

「一念の信心定まらん輩は、十人は十人ながら百人は百人ながら、みな浄土に往生すべき事更に疑なし」（御文章）

と極めて明瞭です。
　そして、

「この信心を獲得せずば、極楽には往生せずして、無間地獄に堕在すべきものなり」（御文章）

の一大事であるから、

「たのむ一念の所、肝要なり」（御一代記聞書）

と断言されているのです。
「肝要」とは「要の中の要」の意で、これ以上大事なものはないことを言われます。

"未来永劫の浮沈は、平生の一念に決する。今の救いを急げ"
　これが親鸞聖人・覚如上人・蓮如上人に一貫する、「平生業成」の教えであることは明々白々でしょう。

伝えるものが、何もない

　ところが光真氏は、

「浄土真宗には、『平生業成』という言葉があります。
　往生は普段から決まっている、という教えです」

　サラーっと読むと、
「往生は、生まれた時から決まっている。これが浄土真宗の教え」
と読めるのは、「そう読ませよう」としている文章だからです。

　次の「現生正定聚」の解説も、同質です。

この世の縁が尽きた時に浄土に往生させていただき、さとりを開く身であると今、定まっていることを、浄土真宗では「現生正定聚」といいます。（同１７６ページ）

　フワーッとした書き方で、読む人は「現生正定聚」が「死ねば誰でも仏になれる。それは生まれた時から『定まっている』こと」のように思わせています。
　しかも、「生まれた時からすでに」など、決して十劫安心と非難される証拠を残さずに。

　それで、ご門主さまにお尋ねします。

「往生は普段から決まっている」の「普段から」とは、「いつから」のことですかと。

「生まれた時からすでに」なのか。
"そんなことは一言も言ってない"とおっしゃるなら、「普段」とは、いつなのか。
　生きている時ならば「往生が決まる前」と「往生が決まった後」とは、どう変わるのか。
　どうすれば「往生が決まっている人」になれるのか。
どうすれば「さとりを開く身に今」、定まるのか。

　これらのことを、分かるように説き示してこそ、親鸞聖人の「平生業成」の教えを明らかにすることになるでしょう。

　ところが、その浄土真宗の肝要の水際もなければ、信前・信後の変わり目も説かれない。
　当然、「平生の救いを急げ」の勧めもない。
　曖昧模糊として、何がなんやらさっぱり分からぬまま、
「往生は普段から決まっている」
では、徹底破邪せねばならぬはずの「十劫安心」に、門徒や大衆を陥らせることにならないでしょうか。

　そういう意味では、今回の新刊は、別に真新しいものでも、驚くべきものでもありません。
　十劫安心そのものです。
　せっかく手間暇をかけて、浄土真宗の一枚看板である「平生業成」という言葉まで出しながら、「いかに親鸞会の追及をかわすか」しか頭にないのですから。

　要するに、伝えたいことが何もないのです。
　これでは、「なぜ生きるの答えは見つからない」とした、前著『朝に紅顔ありて』に恥の上塗りで、「門主」の肩書きが泣くだけではないでしょうか。

　せめて親鸞会が、真実開顕のご縁にしなければ、『愚の骨頂』と嗤われるだけでしょう。

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